放置し過ぎですよorz 年明けの挨拶すらしていない儘、二月を迎えてしまっているサイトの有様で吃驚です。 最終更新も……去年ですね。 本当に御免なさい。 ずっと、Twitterの方に居りました。 文章の鍛錬の為と云いつつも、140文字縛りは案外と心地良く……結局、最後に此処へと書き込んでからは、長い話を書かず仕舞いになってしまっておりました。 漸く少し長い話が書けた、と思ったらまさかのマイナー物。 真逆、サマーウォーズで書くとは、自分でも思いもしませんでしたとも、ええ。 とあるサイト樣に影響されたのもありますが……そして、無謀にも送り付けてもしまいましたが。 一応、下の記事にも置いておきます。 こんな風にぐだぐだなサイトでは御座いますが、見て下さる方々には溢れんばかりの感謝を。 此れからも亀よりも遅い歩みとなる事を、此処で謝っておきますorz |
2010/02/03 |
paper moon's night children 注: サマーウォーズアバター、AI搭載物。 けんじ=仮ケンジ ケンジ=初期ケンジ です。 ・・・・・・・・ 彼は、与えられた言葉を反芻する。 鋭い双眸は陰に隠れ、其の思惟の深さを知らしめた。 反芻。そして検証の後、再び反芻。 其れは彼が持ち得る生来の探究心と云うよりも憂いに近いと、彼自身も知る由も無い儘に。 此の世界にも、四季はある。聖夜や新年の賑わいは現実空間であろうと、仮想空間であろうと変りはしない。勿論、現実の世界を映して昼夜とて巡る。目に染む程に白い朝から、薄紅から菫に移ろう夕。じわりと滲む紺青に仮初の街の光が瞬く夜。此の世界に生れ落ちて以来、目にしてきた物。 自分にとっても、彼にとっても。 でもね、と囁く様な声音に、真っ直ぐ向き合う。 見返す面は常の様に柔和な笑みを湛え、物言いも穏かな物。 が、其処に何か別の何か、優しさの裏側に別の感情が一滴落ちていた様にも感じて、こくんと小さな頭が傾ぐ。 其れを見もせずに、彼は一つ瞬くと言葉を接いだ。 ――僕にはね、此処が明け方を待つ夜の様に見えるよ。 遥かな天上を漂う番[つがい]の鯨へ茫洋とした眸を移し、秘密を囁く様に。 仮想世界の一角。主人によって丁寧に、そして堅牢に造られた私的空間の戸が、ほとほとと叩かれる音に面を上げる。 此処を訪う者は多くない。大概は一人、乃至は二人。黄色い栗鼠と、王者たる兎と。確執を越え、知己と呼べる貴重な者達の姿を思い浮かべつつ、勝色と代赭とは動く。 客人は招かねばならぬ。今は傍に無いケンジの言葉に従い、戸を開けば果して見慣れた黄色が一人、佇んでいた。 今、ケンジは居ない。 恐らくは、と云うよりは十中八九目的であろう人物の不在を重厚な響きを持つ聲で告げると、小さな訪問者は首を振って否定を示す。 ――今日は彼に会いに来たんじゃないんです。貴方に会いに、貴方とだけ話をする為に此処に来たんです。 ふくふくとした小さな手を束[つか]ねて、けんじは云う。怖じる様な仕草に反する真摯な色を湛えた眸に、ラブマシーンの内へと戸惑いが生まれた。 此の存在が自分に対して会話を持ち掛けるのは、稀な事。殊に、個人的にとは。狼狽に動きを止めたラブマシーンに向かい、けんじは尚も言葉を綴る。 ――貴方にはお知らせしないと、と。お知らせした方が良いと、思ったんです。 漠然とした話なのですけど、と一度は落とされた眼差し。 其れでも必死に背を伸ばし、己と向き合おうとする小さな存在の前に膝を折ると、ラブマシーンは内へと招く言葉を投げた。 何を語るのかは未だ知れない。だが、受け止めねばならぬと感じて。 無機質な面の中、眸だけは明瞭に疑念を浮かべたラブマシーンを見据えて、けんじは悩む。何処から話した物かと。 伝えるべきは呟き一つ。けれども、其れだけを伝えたのでは意味が無いだろう。 ――あれは、人ならば聞き流しもしたであろう、本当に小さな呟きだったのだ。 だが、一体如何して、人に在らざるプログラムの耳は聞流すと云った器用な真似など出来はしない。 意図的に『聞こえなかった振り』位ならば出来るが、記録としては残ってしまうのだ。 会話も、表情も。 言葉を発した後、ケンジの変化は其れこそ困惑を呼ぶに十分だった。 限られた表情パターンの中で、驚愕し、狼狽し、落ち込み、立ち直り、照れを装い、そして笑う。一連の変化は刹那的な物で、後に残ったのは曖昧に浮かぶ微笑み。 見慣れた表情、だが貼り付けられた様な其れで、変な事を云って御免ねと謝られた所で、別に良いよ以外に何が云えよう。 いや、別に云えない事も無かったのかも知れない。すぐさま、如何云う意味かと無邪気を装って尋ねたならば。例え誤魔化しの言葉だろうと、聞けない事は無かった。 しかし。 触れてはいけないと思ってしまった。此の言葉を聞くべきは、自分では無いとも。 あれはきっと、彼の深層に在る言葉。ふと浮かんでしまった泡の一粒の様な物。だが、明瞭な暗示。 其れを掬い上げるべきはこの小さな手では無く、もっと広い掌でなければならない。 そう、彼の様に。 浅黒い掌を黒玉の目に映して、けんじは拳を握る。 だから、自分は此処に来たのだ。 行動の発端を思い返して漸く、小さな口が動いた。 一頻り一方的に――其れはラブマシーンが聞き手に徹していたせいだが――話した後、けんじは一つ頭を下げ、出て行った。 後に残るのは静寂……だけでは無い。与えられ、残された言葉達を吟味するように、鋭い眸が眇む。 けんじが語ったのは、他愛の無いと云ってしまえば其れまでの、取り留めの無い遣り取り。互いの近況。主の事。日進月歩発展を遂げる仮想街について。 そして。 ――僕にはね、此処が明け方を待つ夜の様に見えるよ。 白いばかりの中空を見詰め、零されたと云う其の言葉を再び脳裏に巡らせ、ラブマシーンは首を傾けた。 何かしらの比喩なのだろうと云う事は解る。どかりと床に腰を据え、何処かからの引用かと検索を掛けてみたが、回答は皆無。多様な言語のみならず、似通った文句まで枠を広げたが、どれも当て嵌まる物は無い。 ならば、其れはケンジ自身が考え出した表現なのだろうと、一先ず結論付ける。 ケンジはラブマシーンとは異なり、『人間的な』言い回しが得意だ。其れは長らくあの健二と云う等しい名前を持つ主の下で働いていたが故の学習結果だろう。 ならば、と今度は其の主を思考に乗せる。 彼[か]の主人、否、『元主人』は概ね温和。其の性質はケンジは元より、後任にも引き継がれている。 だが、同じく時に頑迷となる所も又、似通っているのだ。 其れなりに気を許している間柄である栗鼠に対してすら、謝罪のみで終わらせた呟きだ、と思考は円環を形作る。 ――何だか悲しそうな、辛そうな。いえ、表情には出ていなかったのですけど、そんな感じがしたんです。 其処だけ詳[つまび]らかに語られた状況は、何人[なんぴと]であろうと詳細を解するのを拒絶している様に思えた。 ケンジが其れを隠し通すべき物だと定めたのなら、以後はどの様な手段を用いても秘匿するだろう。 故に、問いは無意味。此の解は他に求めねばならないだろう。己の中核に居座る本能とも云うべき、知を識ろうとする衝動は解を欲して止まない。 其れが例え、ケンジの意に反する事だとしても。私は、知らねばならない。 閉ざしていた眸を開き、ラブマシーンはしなやかに指を伸ばすと、一つの回線をノックした。 ――It is only a paper moon……って奴かな。 お前の求める回答は、と矩形の向こう側で男が笑う。 口唇の端だけを吊り上げる様な口唇の形を、ラブマシーンは憮然と二の腕を組んで見据える。 其れは、突如として投げ付けられた問いを面白がっている様を、如実に表していた。 ――『人間的思考パターン』ならば、『人間』に聞けば良い。 そう結論付けたラブマシーンがコンタクトを求めたのは、己の製作者である侘助であった。 稼動暦……では無い、生きた長さでも自身に勝る彼ならばこそ持ち得る知識も有るだろう。其れ以前として、『相談事』を持ち掛ける相手が他に居る筈も無く。 面白がられる事も承知の上で連絡を取ったのだが、面白くない物は面白くない。 相も変らず脂下がった顔を向ける侘助から視線を外し、返された答えを思い返す。軽やかに口ずさまれた歌。即座検索に掛ければ、歌詞の全文が返って来る。続いて、其れが使用されたミュージカルに映画。下位項目まで検索し尽した所で、件のケンジが漏らしたと言う言葉は出て来ない。 ラブマシーンの表情を欠いた面の中、眸だけが困惑を映すのに、侘助は煙草に火を点しながら言葉を繋ぐ。 ――明けない夜は無い。が、其の前提条件がそもそも間違ってるんだって事に、あいつも好い加減気付くべきなんだよ。 又、隠喩。ラブマシーンは明確な答えを求めていると云うのに、侘助の側は全く与える積りが無いらしい。詩的とも云える表現だけを与えて、思考しろと促す。 其れが、お前にとっても、彼にとっても、必要なのだと。人の手を離れ、物を思う手段を与えられたお前達なのだから、考える事を放棄するなと。 其れは、楽園に住まい、知識の実を喰らえと促す蛇の囁きにも似て。 ――夜に見る物は、何だろうな。 侘助は最後にそう呟き、一方的に会話を打ち切った。 ぶつりと鈍い音を立てて消滅した窓。其れが存在していた空間を朦朧と視界に入れ、ラブマシーンは与えられた言葉を飽きる事無く考える。 考える。知る事、を追求する。 夜。闇。命有る物が眠りに就く。そして。 Sogno、Dromen、Traum、Rever、Dream、夢。 夢見る内に夜は明ける。目を覚ます。開かれた眸の中、夢は霧消し、戻る事は無い。 人の夢。儚いと云う言葉。泡沫の幻。覚めれば消える。 其処まで至って漸く、ラブマシーンはケンジの言葉が持つ意味に到達出来た気がした。 「ただいま」 帰宅したケンジの視界に飛び込んで来たのは、僅かに丸められた褐色の背。床に胡坐を掻き、瞑想でもしているかの様な其の姿に、おやと大きな眸を瞬かせる。 一度、二度。閉ざされては開く視界の中、背中は依然として其処に在る。何時もならば、聲を掛けた瞬間には即座に応えがあると云うのに。 何か、彼の興味を引く物があったのだろうか。お帰りの言葉すら忘れる程の何かが。 じくりと痛む胸から意識を逸らし、ケンジは足を動かす。高々数歩の距離を、自分の存在を知らせる様にゆっくりと進み、未だ振り返らぬ後背へと聲を投げる。 「ラブマシーンさん? どうか……」 したんですか、と続けたかったのに。 其れは、最後まで紡がれる事は無かった。 不意に片頬が、温もりに包まれる。其れが掌だとケンジが気付いた次の瞬間には、間近に二つの眸が迫っていた。逃げる暇[いとま]も無い。押さえ付けられている訳では無いが、頬に触れる手が、其の眸の光が、逸らす事をも躊躇わせる。 ただ強過ぎる眼差しの前に竦むケンジを、褐色の掌が柔らかに撫でた。 「It is only a paper moon」 繊細とも云える手付きで頬を辿り、髪を梳き。其の動きにケンジの双眸が振れるのを見て、ラブマシーンは柔らかな曲線を描く耳へと口を寄せ、旋律を注いだ。侘助が歌ったのと同じ、けれども遙かに拙い聲で。 「何、ですか。其れ」 訳が解らない。言動の全てが。近過ぎる距離に、又心が跳ねる。 「……明け方を待つ夜に対する回答、だ」 「けんじ君から聞いたんですか」 常に無く歯切れの悪いラブマシーンの物言い。漸く逸らされた眼差しに安堵の息を吐くと同時、苦笑の漣がケンジの顔を覆った。 あの小さな優しい友人は、自分の事を心配してラブマシーンに話したのだろう。今、ケンジの一番傍に居る存在だから、と。 其の気遣いが嬉しくて、苦しい。締め付けられる様な胸を、思わず押さえる。其れでも、笑みの仮面は外れない、外さない。 さあ、笑って取り繕おう。 「何でも無いんですよ。ただの言葉遊びです」 一番知られたくない相手に、知られてしまったけれど。 出来れば、其の真意までは解らないでと、祈るように瞼を伏せる。 だが、続けられた言葉に、ケンジは再び目を見開いた。 「此処は泡沫の夢では無い」 ラブマシーンは頬に添えた手を外さぬ儘、愕然と凍り付いた痩身を引き寄せる。軸を崩された身体は容易く腕の中に落ち、其の温もりに縋るかの様に彼は、鋼の顔を華奢な肩へと埋めた。 「仮にそうだとしても、私が信じる限り、そしてケンジが私を信じてくれれば、其れは本物となる」 唯一の伝達手段である言葉は余りにも不完全。脆い其れを必死に縒り合わせて、ラブマシーンは想いを綴る。 虚構だろうと現実だろうと、さしたる問題では無いのだと解れば良い。此処に二人で在る。其れだけが全て。 貴方が望むなら、明けぬ夜すら創ろう。 だからもう、哀しい夢など見ないで。独りで終わりの淵に立たないで。 其処に行くのならば二人、共に。 「全く、貴方と云う人は」 嗚呼。 耳元で囁き続けられる言葉に、ケンジは俯向き、胸裏で呻く。 嗚呼、ああ。 此の驚愕は、悲しみは、そして其れ等を上回る歓喜は、如何すれば良いのだろう。 自分達が持ち得る心は、人に比べて幼過ぎる。 けれども、幼子故の真摯も在るのだ。 一途に、真っ直ぐに。伸べられる手、そして心。すっかりと包み込まれ、逃げる場所など最早何処にも在りはしないのだと云う事実から、必死に目を逸らしていた自分に気付かされてしまった。 執着は余りにも甘く、暖かい。 「……貴方と云う人は、本当に大きい」 この間まで、小さな子供の様だったのにと呟いて、ケンジはラブマシーンの手を取った。彼の両手でも包みきれない其れに掌を這わせて、熱を帯びた眸をそっと伏せる。そうでもしなければ、其処から溢れてしまいそうだったのだ。涙も、心も。 「夜はとっくに明けていたんですね」 ぎこちなく震える口唇で音を紡ぐ。 鋭いけれども無垢な眼差しに、歪んだ顔を晒すと解ってはいたけれども。ケンジは額を重ね合わせ、逞しい首[こうべ]を掻き抱く。 ラブマシーンも又、全てより守るかの様に腕の中へと矮躯を抱きすくめた。 二人、一つの影となって、長く、長く。 夜を彷徨う子供達は今、明けの光に目覚め。 最早夢に泣く事は無いだろう。 |
2010/02/03 |
果肉の魚 西瓜が腐っていた。 氷室に入れてはいたのだが、此処暫くの茹だるような暑気に敵わなかったらしい。 どうせ残りは一切れ程度だったのだから、見切りを付けて捨てる事にした。 汁気が多過ぎるので其の侭は捨てられない。 言い訳めいた言葉を零しつつ、流しに置いた果実を掌で押し潰す。 僅かにざりざりとした感触を残して平たくなったが、繊維は仕太いようで微塵には為らない。 捻りを加えて漸く欠片にはなったが、其れきりだ。 水気が多い様でいて存外に形を残す。 溜息混じり水栓を開けば、拉げた果肉は散り散りになり何十もの金魚の様に回りながら泳ぎ、排水溝へと吸われて行った。 ・・・・・・・・・ 一寸改定
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2009/08/31 |
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